2009年6月3日水曜日

犬山クリテリウム

 朝7時、目覚ましを止めると雨音が聞こえる。昨夜26時ごろまで仕事してそのままベッドに入ったので身体が重い。レース当日の体調とはしては最低だ。回復を願ってもう一時間二度寝をするが変わらず。風呂に入り、スネ毛の処理をする。まだレースの準備が何もできてない。

 朝食を摂り、タイヤを換える。雨は上がりそうな雰囲気だけど、15時のレースまでに路面が乾くかどうかは微妙。コースに水溜りがあるかもしれない。レース用のユーラスに付いているミシュランPRO2は3年前のもので、昨年の雨のリッツでは滑らないまでも頼りなかった。買い置きしてあったPRO3を押入れから探す。PRO3はペラペラ。持って判るほど軽いが、パンクが多いと評判なのも解る。新しいケンタウルのスプロケットを見つけたので一緒に交換する。12-23Tの10速。18Tはきっと役に立つ。

 路面が乾いてきていたので妻と自走で会場に向かう。新品のPRO3は砂をくっつけて、飛んだ砂がフレームに当たる。いかにもグリップしそうな感じが頼もしい。今日はコーナーが攻められそうだ。 妻のペースにあわせて走ると心拍は100台。アップにはならないけれど、固まった体をほぐすにはちょうどよかった。会場には先にわたなべさんが着てた。

 朝の雨の中、わたなべさんに試走してもらって調べてもらったコース図を基に作戦を立てる。スポーツクラスは1周2.1kmの9周回。コース前半は風が強いので誰も牽きたがらないだろう。後半の連続したコーナーは直角コーナーで曲がりにくいので集団のスピードが上がると抜きづらくなるだろう。最終コーナーを出てからゴールラインまでは150mぐらいだろうか。距離が短いのでスプリントで抜くのは難しい。したがって、バックストレートからぐるっと回るコーナーを抜け、連続コーナーが始まるまでがポイントと判断した。連続コーナーに先頭で入り、最終コーナーを1番で抜けたら、あとはなんとかなるでしょう。スプリントで抜かれたらそれは実力だし。事前の話し合いで、今回は僕がアシスト。わたなべさんに獲ってもらうレースとする。

 レースが始まる頃にはすっかり路面は乾いた。スタートは何事もなくスムースに始まる。先頭は風を気にする様子もなく、最初からスピードが上がる。試走をしていないのでコースなりに走って付いて行くが、コーナーで前の選手に詰まったり、追いやられてスピードを落とさざるを得なかったりして、なかなかスムースに走らせてもらえない。序盤から踏み込んで脚を使いたくないが、周りはダンシングで加速していくので、立ち上がりでは付いていくのがやっと。正直きびしい。

 そうこうしているうちに数周回が過ぎる。コーナーごとにいくつかのラインを走ってみて立ち上がりがスムースなラインを探しつつ、コーナーへの侵入や立ち上がりの速度が遅いときを狙って一人ずつパスしていく。4周目には10番手ぐらいに上がってこれた。

 先頭付近を観察すると元気なのが4、5人。風はあるけれど平坦なので周りもあまり疲れた様子がなく、抜いてもすぐに抜き返される。もう少し待つことにする。

 6周目に入り、バックストレートで若干先頭の速度が緩んだので、先頭に出てみる。ただし、先頭に出ても集団の風除けになるつもりはないので、速度を上げ、集団に差をつけて、一人になる。付いてきた人に「逃げてみる?」と聞いてみたが表情から無理そうだ。逃げるかどうかは決めてないが、連続コーナーを自分ひとりで自由にコーナーリングしてみたら、どのくらいのスピードで抜けられるか試しておきたかった。一回先頭で走って最後に先頭に出たときに焦らないため、でもある。ホームストレートに出た時点で、連続コーナーに侵入したときよりも差が開いていたのが確認できた。満足したし、このまま逃げるのはしんどそうなので、ホームストレートで応援団にピースしながら、集団が追いついてくるのを待った。

 一旦集団の中で回復を待つ。8周目に入った時点でわたなべさんに「あと2周」と声を掛けて先頭のいい位置に移動していく。

 9周目。最終周に入り集団の速度が上がるが、風があるし牽制もあるのでそれほど上がらない。でも、自分も疲れていてバックストレートでなんとなく先頭に出ただけで、わたなべさんが抜いていくのを見て安心して見送ってしまった。そのまま4、5人に抜かれ、ぐるっとコーナーを回る。

 一人が先頭で飛び出し、その後ろに4、5人がいる。後ろから様子を見ていて、わたなべさんに元気はない。ぼうっとしてきて、このまま5、6番でゴールかぁ。レース後、わたなべさんがカミハギで「ダメだったー」と報告するシーンが脳裏に浮かんだ。

 「それだけはイヤ」

 そんなことのために毎日練習してきたんじゃない。拒絶で正気に戻った。下ハンを持った手に力が入る。ペダルをぐいぐいと3回踏み込んだところまでは感触を覚えている。もうあとは脚は勝手に回った。先頭に出たところで、「そのまま行けぇー!」とわたなべさんから指示が飛ぶ。もちろんそのつもり。もう躊躇しない。

 さっきの要領で、連続コーナーを最速ラインでまわる。今までで一番強いGを感じるが、タイヤがしっかりとグリップしている感触を返してくるので自信を持ってコーナーリングできる。コーナー間の短い直線も可能な限り加速していく。ここで後ろに張り付かれていたら、ホームストレートに入ったところでたやすく抜かれてしまうだろう。心配だけど振り向いて確認する余裕はない。右コーナーを抜けて最後のコーナーに向かって加速し始めたときにガシャーンと落車の音が聞こえた。2番手がコケてくれていたらといいのにと思うが、距離がある。2番手ではない。

 最後のコーナーを回り、ホームストレートに出る。もういっぱいいっぱいで立ち上がったらそれだけで失速してしまいそうだ。脚が回り過ぎないようにシフトアップしていく。後ろからもギアチェンジの音が聞こえる。でもすこし距離がある。心拍が上がりすぎて意識が遠のいていく。ゴールラインはもうすぐだが後ろに気配はない。もう抜かれない。優勝を確信した。そしてそのままゴール。

人生で2回目の表彰台の真ん中。
金メダルまで頂いて、すごく嬉しい。

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